ばかりすると二人の居る席の戸を叩くものがある。劇場の案内人だ。
『代議士のドーブレクさんと仰《おっしゃ》いますね?』
『ウム』とドーブレクは驚いて声を出した。『どうして俺の名が解ったか?』
『ただ今御電話がございました、二十二号の桝に居らっしゃるから呼んでくれと仰いました』
『だれからだ!』
『アルビュフェクス侯爵様でございます。……いかが致しましょう?』
『フーン?……いや行こう! 行こう……』
とドーブレクはあわてて席を起《た》って出て行った。
ドーブレクの姿が消えると入れ代りにルパンはスーと音もなく入って来て婦人のそばに腰をおろした。
『あッ! ……アルセーヌ・ルパン』と女は呟いた。
ルパンもまた面喰《めんく》らって呆然たる事しばし、この女はルパンを知っている! 知っているのみならず、得意の変装まで看破してしまったのだ!
『さては知ってるか?……知ってるか?……』と呟きつつ彼は突如、女の顔を覆っているヴェールをパッと取り除いた。
『オヤッ!これは意外!』全く驚いた。彼は吃《ども》る様に云った。この女こそ、かつてドーブレクの邸で、深夜代議士に向って利刄を振りかざし嫌悪の力を繊
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