飾りが付いている。やがて手は水入に届いた。捜《さぐ》る様にしてそっと栓を抜いた。そしてチラッと振り向いて一目見るや否や、手早く栓を元に嵌《は》めた。きっと女が望んでいる品物でなかったに相違ない。
『オヤッ、不思議。あの女もやはり水晶の栓を探しているぞ。こりゃ事件《こと》がいよいよ錯雑《さくざつ》して来たわい』
なおも息を殺して怪しい女客の様子を覘《うかが》っていると驚いた。彼女の表情はみるみる変って、その顔は恐ろしく物凄くなって来た。そしてその手は絶えず卓子の上を辷《すべ》って書籍をそっと押し除《の》けつつその間に燦《さん》として光る短刀に近づいたが、たちまちそれをキッと握りしめた。ドーブレクはあいかわらず熱心に喋り続けている。その背部には光る刃を持った繊手《せんしゅ》が静かに静かに振り上げられて行く。ルパンは女の血に餓えた凄まじい眼光が火の出る様に短刀を突き刺すべき頸《くび》の辺《あたり》にそそがれているのを知った。
腕を差し上げて、女はやや躊躇《ちゅうちょ》の色が見えたが、それも束の間、キリキリッと歯噛みをすると一緒に振り上げた刃がキラリッと光った。
電光石火、ドーブレクの身
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