当時ルパンが平素の住宅としていたのは、凱旋門の傍のシャートーブリヤン街であった。そこにミシェル・ボーモンという変名で家を借りていた。住心地のいい家《うち》で、アシルと云う腹心の部下と二人|限《き》り、この下男代りの部下がルパンに対して各方面から来る電話を細大もらさず主人に通じる役を引受けていた。
この家に帰ったルパンは女工風の女が一時間も前から尋ねて来て待っておると聞いて尠《すくな》からず驚いた。
『何んだって? だって今までに一人だって尋ねて来たものが無かったじゃないか? 若い女か?』
『いいえ、帽子も冠《かむ》らず、頭からショールを被っていますから、顔はよく解りませんが……』
『誰れに会いたいてんだ?』
『ミシェル・ボーモンさんにと云いました』と下男が答えた。
『可怪《おかし》いなあ。して用件は?』
『アンジアンの事件とだけしか云いません……ですから私は……』
『うむ! アンジアン事件! じゃあ女は俺がその事件に関係しておる事を知っておるんだな!……会おう!』
ルパンはズカズカと客間に行って、その扉《ドア》を開けた。
『オイ、何を云ってるんだ。誰も居ないじゃないか』
『居ませ
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