……その時は落雷の様に荒らしてやる……ああ、貴様達は知るまいが……復讐……この恨を晴らすために……晴らすために……ああ愉快だ……俺は復讐のために生きるんだ……俺は貴様達に跪《ひざまづ》いて憐《あわれみ》を乞わしてやるんだ……地面《じべた》へ手をつかして……』と猛り狂うのを折よく入って来た父と下男との手を借りてメルジイが戸外へ突き出しました。それから六週間ばかりして私はビクトリアンと結婚致しました』
『それで、ドーブレクは? 何か妨害を加えませんでしたか?』
『いいえ。でも不思議なことには結婚式に列して下すったルイ・プラスビイユさんが宅へ帰られてみると、その、恋人の女優さんは……何者かに頸を絞められて、惨死していらしたのです……』
『エッ! 何んですって?』とルパン[#「ルパン」は底本では「ルバン」]は跳《おど》り上って驚いた。『ではドーブレクが……』
『ドーブレクがその女優を付け狙っていた事はわかっておりますが、何分証拠がない事には致し方がございません。ドーブレクが女優の処へ来たと云う証拠もなく、何《な》に一ツ手懸りを得ないので、どうも仕様がありませんでした』
『だがプラスビイユは……』
『プラスビイユさんも、私《わたくし》ども同様何も解りません。恐らくドーブレクが女を連れて、どこかへ逃げようと致しました処、女優さんが云う事を聞かず、激しく抵抗したので、かっとなって喉を掴んで殺してしまったのでしょう。しかしそれにしても証拠が一ツもないのでついそれなりになってしまいました』
『それからドーブレクはどうなりましたか?』
『それから数年の間は、何をしていたかちっとも消息《たより》を聞きませんでしたが、噂によりますと、何《な》んでも賭博ですっかり財産を無くしてしまい、内地にも居られなくなってアメリカに渡ったそうです。そんな訳ですから、私《わたくし》も、忘れるともなしにあの脅迫や憤怒のことを忘れてしまい、ドーブレクもう私の事を断念《あきら》めて、復讐の念を断った事と存じていました。その内に良人《おっと》が政界に出ましてからは、良人の出世とか、家庭の幸福とか、アントワンヌの健康なぞに心をとられていました』
『アントワンヌ?』
『ええ、実はジルベールの本名なのでございますが、さすがにあれも、身を恥じて本名を隠していたのでございましょう』
 ルパンはちょっと躊躇していたが、
『で、
前へ 次へ
全69ページ中44ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
新青年編輯局 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング