物を持っていられますが、それは、それ自体ではつまらんものでしょうが、ある方面には非常に貴重な価格のあるものです。この品物はあなたも御承知の通り、二度あなたの手に入りましたが、二度とも私《わたくし》が奪い返しました。それは、もしあなたの手に入ってあなたのために利用せられては非常に困ると思いましたからでございます……』
『利用するって何にですか?』
『エエ、それです。伺いたいと申すのは?』
 そういう彼女の力強い眼と真剣さとはかつて見た事の無いほどだった。
 ルパンはついに躊躇するところなく断言した。
『私《わたくし》の目的は至極簡単です。すなわちジルベールとボーシュレーの二人を救うにあるのです』
『それは真実《ほんとう》ですか?……真実《ほんとう》ですか?……』と婦人は身を慄《ふる》わし不安の眼を輝かして叫んだ。
『私《わたくし》は知っています……私《わたくし》はあなたの何人であるかを知っています……またあなたに気付かれないで、私《わたくし》があなたの生活に立ち入ってからすでに数ヶ月になります……ですが、ある理由で私《わたくし》は今に疑問にしていることがあるのでございます……』
 ルパンは言葉に力をこめて、
『いやあなたはまだ私を了解していない。もし私を了解しているならば、私に対して疑《うたがい》を挟《さしはさ》む事が出来ないはずだ。あの二人の部下、いや少なくともジルベール……ボーシュレーは悪漢ですから別としても……だけはあの恐ろしい運命から救ってやらねばならないのです……』
 婦人はこの時狂気のごとく、やにわに彼の両肩に獅噛《しが》み付《つ》いた。
『エ? 何を仰います? 恐ろしい運命?……あなたはそう御考えになりますか、あなたは真実《ほんとう》に……』
『真実です』と彼は明確に答えた。ルパンはこの一言《いちごん》がいかに彼女を狼狽《ろうばい》させたかを知った。『それはジルベールから来た手紙で明かです。彼《あれ》は私だけを頼りにしています。自分を救い出すものは私より外《ほか》にいないと信じています。この手紙です』
 婦人は手紙を奪う様にして読んだ。
『助けて下さい、首領《かしら》……駄目です……私は恐ろしい……助けて下さい……』
 彼女はバッタリ手紙を落とした。手をぶるぶる慄《ふる》わせ、血走った両眼を見開いて、恐ろしい幻影を見詰める様であった。が、それも一瞬、彼女
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