とうだつ》したもの、それを彼はドーブレクの寝ている間に途中でうまうまと横奪《おうだつ》せんとするのだ。
宜《よ》し退却し始めた。その足音が手摺《てすり》から伝わって来る。彼はますます神経を尖らして次第に接近し来《きた》る怪敵を待ち受けた。突如、数|米突《メートル》の彼方《かなた》に敵の黒影らしいものを認めた。自分は暗い影に身をひそめているので発見される心配はない。
時は今だ! 不意にパッと飛び出したので敵も驚いて立ち止った。ルパンはサッと黒影を目がけて飛び付いた。がドシンと階段の手摺に衝突したのみで、敵は早くも下をくぐって玄関の半ばまで鼠の様に逃げた。ルパンは一生懸命|追《おい》かけた。そしてからくも庭の扉《と》の出口で捕《とら》える事が出来た。
アッと云う敵の声と同時に、扉《と》の向側《むこうがわ》からもアッと云う叫びが起った。
『ああ、畜生、どうしたんだいこりゃあ』とルパンは呟いた。その巨大なる鉄腕に掴まれたものは恐怖に戦《おのの》きふるえている小さな子供だ!
彼は子供をしっかと上衣《うわぎ》に包《くる》んで、ひしと抱きしめながら、絹半巾《きぬハンケチ》を丸めて早速の猿轡《さるぐつわ》とし三階へ駈け上った。
『ホラ、御覧よ』と驚いて跳ね起きたビクトワールに向って云った。『とうとう敵の団長を召捕ったよ。当代の金太郎さんだ。乳母《ばあ》や、お菓子をやっておくれ』
彼は団長を長椅子の上に置いた。見れば七ツか八ツくらいの男の子、毛糸で編んだ帽子を冠《かぶ》り、小さいジャケツを着ているがやや蒼《あお》ざめたいたいけな顔は可憐想《かわいそう》に涙に濡れている。
『まあ、どこから拾っていらっしたのですか?』
と、ビクトワールは驚いて尋ねた。
『階段の下のドーブレクの室《しつ》を出た所でだ!』
と云いながら、ルパンは例の室から何物かを持って来たのだろうと考えて、ソッとジャケツの衣嚢《ポケット》を捜して見たが、そこには何もなかった。その時ルパンは何を聞いたか、
『ヤッ乳母《ばあ》や、聞えるだろう?』
『何が?』
『金太郎君の部下の連中の騒ぎさ』
『まあ!』とビクトワールはもう色を失った。
『まあって云った処で、愚図々々《ぐずぐず》していて陥穽《わな》に落ちちゃあつまらない。そろそろ退却するかな。さあ、金太郎君いらっしゃい』
彼は子供を毛布にグルグルと包《くる》んで
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