らズブリ一突きやったら、それまでじゃ……ね、飛んだハムレットとポロニャスの死が出来上がってしまう……ハムレットの文句じゃあないが「鼠じゃよ、しかも、大きな鼠じゃよ……」これ、ボロニャス殿、いやさ鼠殿、まあその穴から出て来さっしゃい』
 ルパンは今までにこんな忌々しい屈辱な目にあった事が無かった。まるで袋の鼠同様の憂目、這々《ほうぼう》の体たらくである。しかもこれに対してどうする事が出来ようか。
『顔色が少し青い様じゃ、ポロニャス殿、……オヤ、貴公はこの間中から邸の前を迂路付き廻った御隠居さんじゃな! や、ポロニャス殿、貴公はやはり警視庁の御役人じゃろう? まあまあ、落付くがよろしい。別に何ともしないよ……どうだ、クレマンス、俺の算術は確なものだろう。お前の話に依ると、ここへ入って来たものは九人だと云う。ところで俺が帰りしなに、街の遠くの方から勘定した時には連中は八人だった。九から八引く一残る。その御一方《おひとかた》はここに残って、後の様子を覗《うかが》っておるに違いなかろう。すなわち依而如件《よってくだんのごとし》さ』
『なるほど、それから?』と云ったルパンはこの男に飛びかかって一撃の下に叩きのめし、グーの音も云わせぬ様にしたくてウズウズして来た。
『それから? それだけさ何もありはしないよ。隠居はこれで大切さ。さあ、今書いたこの手紙を貴公等の親方、プラスビイユ君の所へ持《もっ》て行くんだ。オイ、クレマンスや、ポロニャス殿を玄関まで御送り申上げろ。今後、この方がいらっしゃった時には、遠慮なく門を開けて、御勝手に御入りなさいと申上げろ、ポロニャス殿、さらばでござる……』
 ルパンはちょっと躊躇した。こうなって来ると、何んとか見得を切らなければ花道の引込《ひっこみ》が付かない。しかしこの場の敗北は散々の体為《ていたらく》、いかんとも為様《しよう》がないので、黙って引込むにしかずと考えた。そして帽子を引掴んで頭に叩き載せ、足音も荒々敷く女中に送られて玄関を出た。
『駑畜生《どちくしょう》ッ』と門を出るや否や、ドーブレクの窓に向って叫んだ。『糞野郎! 悪党! 代議士! 貴様はよくも俺をこんな目に会わしやあがったな! ……ウヌッ、見ろ、貴様……覚えてやがれ、畜生ッ……よろしッ、野郎、この返報はきっと思い知らしてくれるから……』
 彼の怒りは心頭に発した。しかしその心中に燃ゆ
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