る者ぞ」と考えてるだろう。ところがよ。ドッコイそうは問屋が卸さないんだ。おい! プラスビイユ君、君は、その連判状の第三番目に名前が書いている前代議士スタニスラス・ボラングレーを脅迫して、金を捲き上げた人間があるか、知ってるかい? 全体誰れだと思う? え?』
『…………』プラスビイユは蒼くなった。
『俺の前にいるルイ・プラスビイユさ。君が俺の仮面を引剥くなれば、君の面だって、ずいぶんぐら付いているぜ……』
 彼は声高く嘲笑した。そしてプラスビイユとボラングレーとの間に往復した手紙を持っているから、それは今夜いや明朝の四大新聞に素破抜く事になっているんだ。愚図々々云わずと早く大統領の所へ行って一時間以内にジルベールの特赦状を貰って来いと怒鳴った。のみならず彼は特赦状は二十七人連判状だけでたくさんだ、ボラングレーとの文書は四万法渡さねば取引しないと嚇しつけた。
 さすがのプラスビイユもこうなっては手も足も出ない。彼は茫然として夢見る心地でフラフラと室から出て行った。
『いや、天晴れ天晴れ』とルパンは、プラスビイユが出て行く後から呟いた。『プラスビイユの奴め、すっかり嚇し上げられやがって出て行ったが、いずれ特赦状と四万法とを持って来るだろう。この袋の中へ詰め込んだただの白紙が四万法だ! まあこれも、ルパン、貴様が人道のために尽した天の報償だよ。……多少思い切った酷い真似もやったさ。だが、こんな奴等は何んでも高圧的にグングン遣付けるに限る! オイ、頭を上げろ。ルパン! 貴様は虐げられた人道のために健気に奮闘した選手だ! 貴様の行動を誇れよ……さあ、今こそ椅子にふん反り返って長々と手足を延ばして、一寝入しろ。貴様は勝った。それだけの資格があるのだ!……』
 彼は警視庁官房主事室で独りぐっすりと睡りに落ちた。……
[#地から12字上げ](終)



底本:「「新青年」復刻版 大正10年(第2巻) 合本5」本の友社
   2001(平成13)年1月10日復刻版第1刷発行
底本の親本:「新青年 (第二巻第九號)夏季増刊」
   1921(大正10)年8月
初出:「新青年 (第二巻第九號)夏季増刊」
   1921(大正10)年8月
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、以下の置き換えをおこないました。

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