じさんは破《わ》れ鐘《がね》のような声を出して喋りつづけた。あまり声が大きいので奥に寝ていた小栓は眼を覚ましてさかんに咳嗽はじめた。
「お前の家《うち》の小栓が、こういう運気に当ってみれば、あの病気はきっと全快するにちがいない、道理で老栓はきょうはにこにこしているぜ」
と胡麻塩ひげは言った。彼は康おじさんの前に言って小声になって訊いた。
「康おじさん、きょう死刑になった人は夏家《かけ》の息子だそうだが、誰の生んだ子だえ。一体なにをしたのだえ」
「誰って、きまってまさ。夏四※[#「女+乃」、第4水準2−5−41]※[#「女+乃」、第4水準2−5−41]《かしナイナイ》の子さ。あの餓鬼め」
康おじさんはみんなが耳朶《みみたぶ》を引立てているのを見て、大《おおい》に得意になって瘤の塊《かたまり》がハチ切れそうな声を出した。
「あの小わッぱめ。命が惜しくねえのだ。命が惜しくねえのはどうでもいいが、乃公《おれ》は今度ちっともいいことはねえ。正直のところ、引ッ剥《ぺ》がした著物まで、赤眼の阿義《あぎ》にやってしまった。まあそれも仕方がねえや。第一は栓じいさんの運気を取逃がさねえためだ。第二は夏
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