三爺《かだんな》から出る二十五両の雪白々々《シュパシュパ》の銀をそっくり乃公《おれ》の巾著《きんちゃく》の中に納めて一文もつかわねえ算段だ」
 小栓はしずしずと小部屋の中から歩き出し、両手を以て胸を抑《おさ》えてみたが、なかなか咳嗽がとまりそうもない。そこで竈の下へ行ってお碗に冷飯《ひやめし》を盛り、熱い湯をかけて喫《た》べた。
 華大媽はそばへ来てこっそり訊ねた。
「小栓、少しは楽になったかえ。やッぱりお腹《なか》が空くのかえ」
「いい包《パオ》だ。いい包《パオ》だ」
 と康おじさんは小栓をちらりと見て、皆《みな》の方に顔を向け
「夏三爺はすばしッこいね。もし前に訴え出がなければ今頃はどんな風になるのだろう。一家一門は皆殺されているぜ。お金!――あの小わッぱめ。本当に大それた奴だ。牢に入れられても監守に向ってやっぱり謀叛《むほん》を勧めていやがる」
「おやおや、そんなことまでもしたのかね」
 後ろの方の座席にいた二十《にじゅう》余りの男は憤慨の色を現わした。
「まあ聴きなさい。赤眼の阿義が訊問にゆくとね。あいつはいい気になって釣り込もうとしやがる。あいつの話では、この大清《だいしん》
前へ 次へ
全19ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
井上 紅梅 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング