《おおい》にわかったつもりで言った。
「気が狂ったんだ」
 と、二十《はたち》余りの男も言った。
 店の中の客は景気づいて皆《みな》高笑いした。小栓も賑やかな道連れになって懸命に咳嗽をした。康おじさんは小栓の前へ行って彼の肩を叩き
「いい包《パオ》だ! 小栓――お前、そんなに咳嗽《せ》いてはいかんぞ、いい包《パオ》だ!」
「気狂《きちが》いだ」
 と駝背の五少爺も合点《がてん》して言った。

        四

 西関外《せいかんがい》の城の根元に靠《よ》る地面はもとからの官有地で、まんなかに一つ歪《ゆが》んだ斜《はす》かけの細道がある。これは近道を貪る人が靴の底で踏み固めたものであるが、自然の区切りとなり、道を境に左は死刑人と行倒《ゆきだう》れの人を埋《うず》め、右は貧乏人の塚を集め、両方ともそれからそれへと段々に土を盛り上げ、さながら富家《ふけ》の祝いの饅頭を見るようである。
 今年の清明節《せいめいせつ》は殊の外寒く、柳がようやく米粒ほどの芽をふき出した。
 夜が明けるとまもなく華大媽は右側の新しい墓の前へ来て、四つの皿盛と一碗の飯を並べ、しばらくそこに泣いていたが、やがて銀紙
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