色になってしまった。
「ウム!……」と、彼女は最後の呼吸《いき》を吐いた。
 天の果てには、真紅の雲の間に、光線を四方に放った太陽がある。流れる金の玉が、大昔の溶岩のなかに包まれているようである。他の一方は、鉄のように冷い白い月がある。しかし、どちらが昇ってどちらが下るのかは判らない。このとき、自らのすべてを自ら使い果たした彼女の体が、このなかに横わり、もう呼吸もしないでいた。
 上下四方は、死にまさる静寂である。

        三

 天気の非常に寒いある日、やや騒々しさが聴えた。それは禁軍がとうとう殺到してきたのである。彼等は火の光と煙塵《えんじん》の見えないときを待っていたから、到著《とうちゃく》が遅れたのである。彼等は左に一本の黄《きいろ》い斧、右に一本の黒い斧、後に一本の非常に大きくて古い軍旗をひらめかして、まっしぐらに女※[#「女+咼」、第3水準1−15−89]の屍《かばね》の周りに攻め寄せたが、いっこう何等の動静も見えない。彼等は、屍の腹の皮の上に要塞を築いたが、そこが一番|※[#「月+叟」、第4水準2−85−45]《あぶらぎ》っているからである。彼等はこんなことを選
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