は一しきり明るくなって空部屋《あきべや》と洞空《ほらあな》を照したが、パチパチと幾声《いくこえ》か破裂したあとで、だんだん縮少して、ありたけになった残油《のこりあぶら》はすでに燃え尽してしまった。
「城門を開けて下さい」
大きな希望を含みながら恐怖の悲声、かげろうにも似ている西関門《せいかんもん》前の黎明の中に戦々兢々として叫んだ。
二日目の日中、西門から十五里の万流湖《ばんりゅうこ》の中に一つの土左衛門《どざえもん》を見た人があって大騒ぎとなり、終《つい》に地保《じほ》の耳に達し、土地の者に引揚げさせてみると、それは五十余りの男の死体で、「中肉中脊、色白く鬚《ひげ》無し、すっぱだかで上衣も下袴《したばかま》も無い。ある人がそれは陳士成だといったが、近処の者は面倒くさがって見にも行かなかった。死体の引受人もないから県の役人が立会って検屍の上、地保に渡して埋葬した。死因は至っては当然問題ではない。死人の衣服を剥ぎ取ることはいつもあることで、謀殺の疑いを引起す余地がない。そうして検屍の証明では、「生前、水に落ちて水底に藻掻《もが》いたから、十本の指甲《つめ》の中には皆河底の泥が食い込
前へ
次へ
全12ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
井上 紅梅 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング