くさんの文字は小作人が語った四方山《よもやま》の話だ。それが皆ゲラゲラ笑い出し、気味の悪い目付でわたしを見る。
わたしもやっぱり人間だ。彼等はわたしを食いたいと思っている。
四
朝、静坐《せいざ》していると、陳老五が飯を運んで来た。野菜が一皿、蒸魚《むしうお》が一皿。この魚の眼玉は白くて硬く、口をぱくりと開けて、それがちょうど人を食いたいと思っている人達のようだ。箸をつけてみると、つるつるぬらぬらして魚かしらん、人かしらん。そこではらわたぐるみそっくり吐き出した。
「老五、アニキにそう言ってくれ。乃公は気がくさくさして堪らんから庭内を歩こうと思う」
老五は返事もせずに出て行ったが、すぐに帰って来て門を開けた。
わたしは身動きもせずに彼等の手配を研究した。彼等は放すはずはない。果してアニキは一人のおやじを引張って来てぶらぶら歩いて来た。彼の眼には気味悪い光が満ち、わたしの看破りを恐れるように、ひたすら頭を下げて地に向い、眼鏡の横べりからチラリとわたしを眺めた。アニキは言った。
「お前、きょうはだいぶいいようだね」
「はい」
「きょうは何先生《かせんせい》に来て
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