も発狂しそうなので、華大媽は見かねて身を起し、小路《こみち》を跨いで老女にささやいた。
「老※[#「女+乃」、第4水準2−5−41]※[#「女+乃」、第4水準2−5−41]《ラオナイナイ》、そんなに心を痛めないでわたしと一緒にお帰りなさい」
老女はうなずいたが、眼はやッぱり上ずっていた。そうしてぶつぶつ何か言った。
「あれ御覧なさい。これはどういうわけでしょうかね」
華大媽は老女のゆびさした方に眼を向けて前の墓を見ると、墓の草はまだ生え揃わないで黄いろい土がところ禿げしてはなはだ醜いものであるが、もう一度、上の方を見ると思わず喫驚《びっくり》した。――紅白の花がハッキリと輪形《わがた》になって墓の上の丸い頂きをかこんでいる。
二人とも、もういい年配で眼はちらついているが、この紅白の花だけはかえってなかなかハッキリ見えた。花はそんなにも多くもなくまた活気もないが、丸々と一つの輪をなして、いかにも綺麗にキチンとしている。華大媽は彼女の倅の墓と他人の墓をせわしなく見較べて、倅の方には青白い小花がポツポツ咲いていたので、心の中では何か物足りなく感じたが、そのわけを突き止めたくはなかった。すると老女は二足三足、前へ進んで仔細に眼をとおして独言《ひとりごと》を言った。
「これは根が無いから、ここで咲いたものではありません――こんなところへ誰がきましょうか? 子供は遊びに来ることが出来ません。親戚も本家も来るはずはありません――これはまた、何としたことでしょうか」
老女はしばらく考えていたが、たちまち涙を流して大声上げて言った。
「瑜《ゆ》ちゃん、あいつ等はお前に皆《みな》罪をなすりつけました。お前はさぞ残念だろう。わたしは悲しくて悲しくて堪りません。きょうこそここで霊験をわたしに見せてくれたんだね」
老女はあたりを見廻すと、一羽の鴉《からす》が枯木《かれぎ》の枝に止まっていた。そこでまた喋り始めた。
「わたしは承知しております。――瑜ちゃんや、可憐《かわい》そうにお前はあいつ等の陥穽《かんせい》に掛ったのだ。天道様《てんとうさま》が御承知です、あいつ等にもいずれきっと報いが来ます。お前は静かに冥《ねむ》るがいい。――お前は果《はた》して、しんじつ果《はた》してここにいるならば、わたしの今の話を聴取ることが出来るだろう――今ちょっとあの鴉をお前の墓の上へ飛ばせて御覧」
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