持って来て、蘆の山に火をつけようと決心し、ちょうど手を伸そうとしたときに、脚の指を何か刺すのに気がついた。
 彼女が下を見ると、相変らず前に作った小さいものであるが、よりいっそう異様である。何だか布《きれ》のようなものを幾重にも体に纏い、腰には特別に十数本の布をつけ、頭には何だか判らないものを被っており、天辺には真黒な小さい長方形の板を戴き、手には何か提げているが、脚の指を刺すのはこれである。
 長方形の板を載せているのは、女※[#「女+咼」、第3水準1−15−89]の両腿の間に立って上を向いて、彼女を一眼見ると急いでその小さい一片を差し上げた。彼女が続いて見ていると、それは非常に滑らかな青い竹で、その頂に二筋の黒い細い点があり、それは槲《かし》の樹の葉の上にある黒点よりも、遥《はるか》に小さい。彼女はかえって、その技術の精巧なことに感服した。
「これは何だ?」彼女は好奇心に駆れれて、また思わず訊かずにはおられなかった。
 長方形の板を載せているのが、竹片《たけぎれ》を指して、立板に水を流すごとくにいった。「裸※[#「ころもへん+呈」、第3水準1−91−75]《らてい》淫佚《いんしつ》で、徳を失い礼を蔑《ないがし》ろにし、度を敗るは、禽獣《きんじゅう》の行いである。国には常刑《じょうけい》あり、ただこれを禁ずる」
 女※[#「女+咼」、第3水準1−15−89]はその長方形の板に対して、目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]ったが、自分の訊き方が悪かったことを微笑した。彼女は本来、こんなものと掛合っていては、いつも話が判らないことを知っていたから、その上口をきかないで、すぐその竹片を頭の上の長方形の板に載せ、手を回して燃えている森の中から、火のついている一株の樹を引き抜いて、蘆の山に火をつけようとした。
 たちまちすすりなく声が聴こえたが、今まで聴いたことのない巧みさであったから、彼女はちょっともう一度下を見た。すると、長方形の板の下の小さい眼は、芥子粒《けしつぶ》より小さい二粒の涙を漾《たた》えているのが見える。それは、彼女が先ほど聴き慣れていた「オギア、オギア」という鳴き声とは、よほど違っているから、これも一種の啼き声だとは知らない。
 彼女はすぐ火をつけたが、一個所だけではなかった。
 火の勢《いきおい》は決して盛《さかん》ではなく、蘆も乾き切ってはいな
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