ものです」
「代々落ち目になるばかりだ」九斤老太は同じ事を繰返した。
 七斤ねえさんはこれに対してまだ答えもせぬうちにたちまち七斤が露路口《ろじぐち》から現われた。そこで彼女は夫に向って怒鳴りつけた。
「お前さん、なんだって今時分帰って来たの。どこへ行ってけつかったの。人がお前の御飯を待っているのが解らねえのか。この馬鹿野郎!」

 七斤は田舎に住んではいるが少しく野心を持っていた。彼の祖父から彼の代まで三代|鋤鍬《すきくわ》を取らなかった。彼もまた先代のように人のために通い船を出していた。毎朝一度|魯鎮《ろちん》から城へ行って夕方になって帰って来た。そういうわけでなかなか世事に通じていた。たとえばどこそこでは雷公《かみなり》が蜈蚣《むかで》のお化けを劈《さ》き殺した。どこそこでは箱入娘が夜叉のような子を産んだ。というようなことなど好く知っていた。彼は村人の中では確かにもう指折の人物になっていた。けれど夏は燈火《あかり》のつかぬうちに食事をするのが農家の慣わしであるから、帰りが遅くなって嚊《かかあ》に小言をいわれるのは無理もないことである。
 七斤は象牙の吸口と白銅の雁首の附いている六
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