り魯鎮から通い船を漕いでお城へ行き、晩になるとまた魯鎮に帰って来た。きょうは六尺の斑竹の煙管の外に一つのお碗を持って来た。彼は晩飯の席上で九斤老太に向い、このお碗を城内で釘付けすると欠け口が大きいから銅釘が十六本要った。一本が三文で皆で四十八文かかった。
九斤老太ははなはだ不機嫌だった。「代々落ち目になるばかりだ。わしは長生きをし過ぎた。釘一つが三文。むかしの釘はそんなものではない。むかしの釘は何だ……わしは七十九になった」
それから後でも七斤は日々に入城したが、家内はいつも薄闇《うすぐら》かった。
村人は大抵廻避して彼が城内から持って来た珍談を聞きに来ようともしなかった。七斤ねえさんはいい機嫌になっていられない。いつも「咎人」と彼を罵った。
十日ばかり過ぎて七斤は城内から帰って来ると彼の女房は大層嬉しそうだ。
「お前は城内で何か聴いておいでだろうね」
「なんにも聴かなかった」
「天子様はお匿れにならないのだろう」
「あいつ等は何とも言っていなかった」
「咸亨酒店の中で何とか言っていた人はなかったかね」
「なんとも言っていなかった」
「わたしはきっと天子様はお匿れにならないと思
前へ
次へ
全17ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
魯迅 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング