たしはたしかに猫の敵《かたき》と見られている。わたしはかつて猫を殺したことがある。平常《いつも》好く猫を打《う》つ、ことに彼等の交合の時において甚しい。しかし、わたしの猫を打《う》つ理由は、彼等の交合に因るのではなく、彼等の騒ぎに因るので、騒がれるとわたしは眠れないからである。わたしは思う。交合は何もこんなに大騒ぎをしなければならないというものではなかろう。まして黒猫は小兎を殺したのではないか。わたしは更に「師《いくさ》を出すに名あり」である。母があんまり善行を修め過ぎるのではないかと思われた。そこで我れ知らず言葉に稜《かど》が立ち、そうではありませんよ、というような答えをしなければならなくなった。
造物はあんまりガサツだ。わたしは彼に反抗しないではいられなくなった。そういいながらかえってわたしは彼の忙《せわ》しない仕事を援助するのかもしれない……
あの黒猫はやがて塀の上に威張っていることが出来なくなるのだろう。わたしは腹を極めた。そこで我れ知らず本箱の中の一瓶の青酸カリウムを眺めた。
[#地から4字上げ](一九二二年十月)
底本:「魯迅全集」改造社
1932(昭和7)年11月18日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、以下の書き換えをおこないました。
「彼奴→あいつ 或→ある 於て→おいて 大方→おおかた 恐らく→おそらく 反って→かえって か知→かし 曽て→かつて 屹度→きっと 位→くらい 此処→ここ 殊に→ことに 此→この 宛ら→さながら (て)仕舞→(て)しま 頗る→すこぶる 凡て→すべて 其処→そこ 其→その 大概→たいがい 慥か→たしか 忽ち→たちまち 多分→たぶん 一寸→ちょっと迚も→とても 兎に角→とにかく 許り→ばかり 甚だ→はなはだ 況して→まして 又・亦→また 未だ→まだ 丸で→まるで 若し→もし 勿論→もちろん 以て→もって」
※底本は総ルビですが、一部を省きました。
※底本に収録された他の作品に、「燈」と「灯」の混在がみられるので、この作品でも、「燈」はそのままにしました。
入力:京都大学電子テクスト研究会入力班(荒木恵一)
校正:京都大学電子テクスト研究会校正班(大久保ゆう)
2008年5月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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