。子供はまだ涙で一杯になった眼で、真紅《まっか》な脣を開《あ》いたまま彼を見ている。
「脣……」
 彼が側《そば》に眼を呉れた時は、薪はもう運ばれていた。「……おそらくは将来これもまた五五の二五、九九八十一にでもなるんだろう! 二つの眼玉を気味悪く光らせて……」彼はこう思いながら、表題だけ書いた原稿用紙と計算の数字を書いた原稿用紙を手荒く引張り出し、それを揉苦茶《もみくちゃ》にしてまた引き延ばし、子供の涙や鼻涕《はなじる》を拭き取った。
「好い子だから向うへ行って一人でお遊び」
 彼は子供を推しのけながら、紙を丸めて力任せに紙屑籠の中に抛り込んだ。
 彼は子供にも、フイと飽き足らなくなったが、重ねてまた振返えると子供がヨチヨチ部屋を出て行《ゆ》くのを見た。耳には木ッ端の音を聞きながら。
 彼は気を落著《おちつ》けようとして眼を閉じ、雑念を拒止《きょし》して心を落著けて腰を下した。彼は一つのひらたい丸い黒い花が、黄橙《おうとう》の心《しん》をなして浮き出し左眼《さがん》の左角《ひだりかど》から漂うて右に到って消え失せた。続いて一つの明緑花《めいりょくか》と黒緑色《こくりょくしょく》の心と
前へ 次へ
全16ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
魯迅 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング