ないところを見ると、一|時《じ》に書いたものでないことが明らかで、間々《まま》聯絡《れんらく》がついている。専門家が見たらこれでも何かの役に立つかと思って、言葉の誤りは一字もなおさず、記事中の姓名だけを取換えて一篇にまとめてみた。書名は本人平癒後自ら題したもので、そのまま用いた。七年四月二日しるす。
[#ここで字下げ終わり]


        一

 今夜は大層月の色がいい。
 乃公《おれ》は三十年あまりもこれを見ずにいたんだが、今夜見ると気分が殊《こと》の外《ほか》サッパリして初めて知った、前の三十何年間は全く夢中であったことを。それにしても用心するに越したことはない。もし用心しないでいいのなら、あの趙家《ちょうけ》の犬めが何だって乃公の眼を見るのだろう。
 乃公が恐れる理《わけ》がある。

        二

 今夜はまるきり月の光が無い。乃公はどうも変だと思って、早くから気をつけて門を出たが、趙貴翁《ちょうじいさん》の目付《めつき》がおかしいぞ。乃公を恐れているらしい。乃公をやっつけようと思っているらしい。ほかにまだ七八人もいるが、どれもこれも頭や耳を密著《くっつ》けて乃公の
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