くさんの文字は小作人が語った四方山《よもやま》の話だ。それが皆ゲラゲラ笑い出し、気味の悪い目付でわたしを見る。
わたしもやっぱり人間だ。彼等はわたしを食いたいと思っている。
四
朝、静坐《せいざ》していると、陳老五が飯を運んで来た。野菜が一皿、蒸魚《むしうお》が一皿。この魚の眼玉は白くて硬く、口をぱくりと開けて、それがちょうど人を食いたいと思っている人達のようだ。箸をつけてみると、つるつるぬらぬらして魚かしらん、人かしらん。そこではらわたぐるみそっくり吐き出した。
「老五、アニキにそう言ってくれ。乃公は気がくさくさして堪らんから庭内を歩こうと思う」
老五は返事もせずに出て行ったが、すぐに帰って来て門を開けた。
わたしは身動きもせずに彼等の手配を研究した。彼等は放すはずはない。果してアニキは一人のおやじを引張って来てぶらぶら歩いて来た。彼の眼には気味悪い光が満ち、わたしの看破りを恐れるように、ひたすら頭を下げて地に向い、眼鏡の横べりからチラリとわたしを眺めた。アニキは言った。
「お前、きょうはだいぶいいようだね」
「はい」
「きょうは何先生《かせんせい》に来ていただいたから、見てもらいな」
「ああそうですか」
実際わたしはこの親爺が首斬《くびきり》役であるのを知らずにいるものか。脈を見るのをつけたりにして肉付を量り、その手柄で一分の肉の分配にあずかろうというのだ。乃公はもう恐れはしない。肉こそ食わぬが、胆魂《きもたま》はお前達よりよっぽど太いぞ。二つの拳固を差出して彼がどんな風に仕事をするか見てやろう。親爺は坐っていながら眼を閉じて、しばらくはさすってみたり、またぽかんと眺めてみたり、そうして鬼の眼玉を剥き出し
「あんまりいろんな事を考えちゃいけません。静かにしているとじきに好くなります」
フン、あんまりいろんな事を考えちゃいけません、静かにしていると肥りまさあ! 彼等は余計に食べるんだからいいようなものの乃公には何のいいことがある。じきに「好くなります」もないもんだ。この大勢の人達は人を食おうと思って陰《かげ》になり陽《ひなた》になり、小盾になるべき方法を考えて、なかなか手取早く片附けてしまわない、本当にお笑草《わらいぐさ》だ。乃公は我慢しきれなくなって大声上げて笑い出し、すこぶる愉快になった。自分はよく知っている。この笑声の中には義
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