っても、まだいくらかあるに違いない」
「たった一枚幕が残っております」
「幕でもいいかた持って来てお見せ」と趙太太は慌てて言った。
「そんな物はあしたでもいいや」趙太爺はさほど熱心でもなかった。「阿Q、これからなんでも品物がある時には、まず、乃公の処へ持って来て見せるんだぞ」
「値段は決してほかの家《うち》よりすくなく出すことはない」秀才は言った。
 秀才の奥さんはチラリと阿Qの顔を見て彼が感動したかどうかを窺《うかが》った。
「わたしは皮の袖無しが一枚欲しいのだが」と趙太太は言った。
 阿Qは応諾しながらも不承々々に出て行ったから、気にとめているかどうかしらん。これは趙太爺を非常に失望させ、腹が立って気掛りで欠伸がとまってしまうくらいであった。秀才太爺も阿Qの態度に非常な不平を抱き、この「忘八蛋《ワンパダン》」警戒する必要がある。いっそ村役人に吩咐《いいつ》けてこの村に置かないことにしてやろうと言ったが、趙太爺は、そりゃ好《よ》くないことだと思った。そうすれば怨みを受けることになる。ましてああいうことをする奴は大概「老いたる鷹は、巣の下の物を食わない」のだから、この村ではさほど心配す
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