らく搗いていると身内が熱くなって来たので、手をやすめて著物《きもの》をぬいだ。
 著物《きもの》を脱ぎおろした時、外の方が大変騒々しくなって来た。阿Qは自体賑やかなことが好きで、声を聞くとすぐに声のある方へ馳《か》け出して行った。だんだん側《そば》へ行ってみると、趙太爺の庭内でたそがれの中ではあるが、大勢|集《あつま》っている人の顔の見分けも出来た。まず目につくのは趙家のうちじゅうの者と二日も御飯を食べないでいる若奥さんの顔も見えた。他に隣の鄒七嫂《すうしちそう》や本当の本家の趙白眼《ちょうはくがん》、趙司晨《ちょうししん》などもいた。
 若奥さんは下部屋《しもべや》からちょうど呉媽を引張り出して来たところで
「お前はよそから来た者だ……自分の部屋に引込んでいてはいけない……」
 鄒七嫂も側《そば》から口を出し
「誰だってお前の潔白を知らない者はありません……決して気短なことをしてはいけません」といった。
 呉媽はひた泣きに泣いて、何か言っていたが聞き取れなかった。
 阿Qは想った。「ふん、面白い。このチビごけが、どんな悪戯《いたづら》をするかしらんて?」
 彼は立聴きしようと思って趙
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