中《うち》でたった一人の女僕《じょぼく》であった。皿小鉢を洗ってしまうと彼女もまた腰掛の上に坐して阿Qと無駄話をした。
「奥さんはきょうで二日御飯をあがらないのですよ。だから旦那は小妾《ちいさい》のを一人買おうと思っているんです」
「女……呉媽……このチビごけ」と阿Qは思った。
「うちの若奥さんは八月になると、赤ちゃんが生れるの」
「女……」と阿Qは想った。
阿Qは煙管《きせる》を置いて立上った。
「内《うち》の若奥さんは……」と呉媽はまだ喋舌《しゃべ》っていた。
「乃公とお前と寝よう。乃公とお前と寝よう」
阿Qはたちまち強要と出掛け、彼女に対してひざまずいた。
一|刹那《せつな》、極めて森閑《しんかん》としていた。
呉媽はしばらく神威《しんい》に打たれていたが、やがてガタガタ顫え出した。
「あれーッ」
彼女は大声上げて外へ馳《か》け出し、馳《か》け出しながら怒鳴っていたが、だんだんそれが泣声に変って来た。
阿Qは壁に対《むか》って跪坐《きざ》し、これも神威に打たれていたが、この時両手をついて無性《ぶしょう》らしく腰を上げ、いささか沫《あわ》を食ったような体《てい》でドギマ
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