折柄《おりから》向うから来たのは、靜修庵《せいしゅうあん》の若い尼であった。阿Qはふだんでも彼女を見るときっと悪態を吐《つ》くのだ。ましてや屈辱のあとだったから、いつものことを想い出すと共に敵愾心《てきがいしん》を喚起《よびおこ》した。
「きょうはなぜこんなに運が悪いかと思ったら、さてこそてめえを見たからだ」と彼は独りでそう極めて、わざと彼女にきこえるように大唾を吐いた。
「ペッ、プッ」
 若い尼は皆目《かいもく》眼も呉れず頭をさげてひたすら歩いた。すれちがいに阿Qは突然手を伸ばして彼女の剃り立ての頭を撫でた。
「から坊主! 早く帰れ。和尚が待っているぞ」
「お前は何だって手出しをするの」
 尼は顔じゅう真赤にして早足で歩き出した。
 酒屋の中の人は大笑いした。己れの手柄を認めた阿Qはますますいい気になってハシャギ出した。
「和尚はやるかもしれねえが、おらあやらねえ」彼は、彼女の頬《ほっ》ぺたを摘《つま》んだ。
 酒屋の中の人はまた大笑いした。阿Qはいっそう得意になり、見物人を満足させるために力任せに一捻りして彼女を突放した。
 彼はこの一戦で王※[#「髟/胡」、138−9]のこ
前へ 次へ
全80ページ中23ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
魯迅 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング