ろがこの怒目《どもく》主義を採用してから、未荘のひま人はいよいよ附け上がって彼を嬲《なぶ》り物にした。ちょっと彼の顔を見ると彼等はわざとおッたまげて
「おや、明るくなって来たよ」
阿Qはいつもの通り目を怒らして睨むと、彼等は一向平気で
「と思ったら、空気ランプがここにある」
アハハハハハと皆は一緒になって笑った。阿Qは仕方なしに他の復讎の話をして
「てめえ達は、やっぱり相手にならねえ」
この時こそ、彼の頭の上には一種高尚なる光栄ある禿があるのだ。ふだんの斑《まだ》ら禿とは違う。だが前にも言ったとおり阿Qは見識がある。彼はすぐに規則違犯を感づいて、もうその先きは言わない。
閑人《ひまじん》達はまだやめないで彼をあしらっていると、遂にに打ち合いになる。阿Qは形式上負かされて黄いろい辮子《べんつ》を引張られ、壁に対して四つ五つ鉢合せを頂戴《ちょうだい》し、閑人はようやく胸をすかして勝ち慢《ほこ》って立去る。
阿Qはしばらく佇んでいたが、心の中《うち》で思った。「[#「「」は底本では欠落]乃公はつまり子供に打たれたんだ。今の世の中は全く成っていない……」そこで彼も満足し勝ち慢《ほこ》って立去る。
阿Qは最初この事を心の中《うち》で思っていたが、遂にはいつも口へ出して言った。だから阿Qとふざける者は、彼に精神上の勝利法があることをほとんど皆知ってしまった。そこで今度彼の黄いろい辮子を引掴《ひっつか》む機会が来るとその人はまず彼に言った。
「阿Q、これでも子供が親爺《おやじ》を打つのか。さあどうだ。人が畜生を打つんだぞ。自分で言え、人が畜生を打つと」
阿Qは自分の辮子で自分の両手を縛られながら、頭を歪めて言った。
「虫ケラを打つを言えばいいだろう。わしは虫ケラだ。――まだ放さないのか」
だが虫ケラと言っても閑人は決して放さなかった。いつもの通り、ごく近くのどこかの壁に彼の頭を五つ六つぶっつけて、そこで初めてせいせいして勝ち慢《ほこ》って立去る。彼はそう思った。今度こそ阿Qは凹垂《へこた》れたと。
ところが十秒もたたないうちに阿Qも満足して勝ち慢《ほこ》って立去る。阿Qは悟った。乃公は自《みずか》ら軽んじ自ら賤《いや》しむことの出来る第一の人間だ。そういうことが解らない者は別として、その外の者に対しては「第一」だ。状元《じょうげん》もまた第一人じゃないか。「人を
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