「吶喊」原序
魯迅
井上紅梅訳
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)囘憶《おもいで》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)大概|他人《ひと》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から6字上げ]
−−
わたしは年若い頃、いろいろの夢を作って来たが、あとではあらかた忘れてしまい惜しいとも思わなかった。いわゆる囘憶《おもいで》というものは人を喜ばせるものだが、時にまた、人をして寂寞《せきばく》たらしむるを免れないもので、精神《たましい》の縷糸《いと》が已《すで》に逝ける淋しき時世になお引かれているのはどういうわけか。わたしはまるきり忘れることの出来ないのが苦しい。このまるきり忘れることの出来ない一部分が今、「吶喊」となって現われた来由《わけ》である。
わたしは、四年あまり、いつもいつも――ほとんど毎日、質屋と薬屋の間を往復した。年齢《としごろ》は忘れたが、つまり薬屋の櫃台《デスク》がわたしの脊長《せた》けと同じ高さで、質屋のそれは、ほとんど倍増しの高さであった。わたしは一倍も高い櫃台《デスク》の外から著物《きも
次へ
全12ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
魯迅 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング