題になっていたのである。そこで彼はガロエイ夫人に腕をかしながら、大急ぎで、食堂へとせき立てられた。
マーガレット嬢があの危険千万なオブリアンの腕を取らない限りは、彼女の父は全く満足されていた。しかも彼女はそうせずに、行儀よくシモン博士と這入って行った。それにもかかわらず、老ガロエイ卿は落つきがなく無作法であった。彼は食事中に充分に社交的であった、がしかし、喫煙が終って、若手の方の三人――シモン博士と、坊さんのブラウンと、外国の軍服に身を包んだ亡命客で危険なオブリアン司令官とは、温室の方で婦人達と話したり、煙草を喫んだりするために、いつの間にか消えてしまった時、それからというもの、英国外交官のガロエイ卿はすこぶる社交的でなくなった。彼は破落戸《ごろつき》のオブリアンが、マーガレットに何か合図でもしはしないかと時々刻々そればかり気にしていた。彼は一切の宗教を信仰する白頭の米人なるブレインと、何ものをも信ぜぬ胡麻塩頭の仏人ヴァランタンと、[#「、」は底本では「。」]たった三人取残されて珈琲《コーヒー》をのんでいた。主人とブレインとは互に議論を戦わしたが、二人ともガロエイ卿に助けを乞《こお》うとはしなかった。しばらくするとその討論もひどくだれ始めた。ガロエイ卿もそこを立上って客間を目指した。が長い廊下で七八分間も道に迷った。やがてシモン博士の甲高い、学者ぶった声、次で坊さんの一向パッとしない声、最後に一同のドッと笑う声がきこえた。彼等もまたたぶん、「科学と宗教」の話しをしているのだろうと推量して、ガロエイ卿はにがにがしく思った。だが彼が客間の扉《ドア》をあけると、彼はそこに司令官のオブリアンの居ない事を、また娘のマーガレットも居ない事を見てとった。
彼は食堂を出て来たように客間を去って、再び廊下を踏みならしながら歩いた。やくざ者のオブリアンの手から娘を護らなくてはならないという考えで、今にも頭が狂いそうな気がした。彼は主人の書斎のある裏手の方に行《ゆ》くと、娘のマーガレットが真青な、侮辱を受けたような顔をしてバタバタと駈出して来るのに出遭ってびっくりしてしまった。もし娘がオブリアンと一緒にいたのだとすれば、オブリアンの奴は今どこにいるのだろう? もし娘がオブリアンと一緒にいなかったとすれば、娘は今までどこにいたのだろうか? 彼は一種の狂的な疑惑の念にかられて、家の暗い奥
前へ
次へ
全21ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
チェスタートン ギルバート・キース の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング