て来る魔女のかぶる陰険な尖り帽を思い出させるのであった。そして周囲にゆらいでいる松林は小塔の緑色《りょくしょく》と対比して無数の渡鳥《わたりどり》の群のように黒く見えた。こうした人を夢幻の世界か、または睡《ねむ》たげな魔界のような雰囲気の中に惹込むのは、ただこの景物ばかりがさせる技ではなかった、なぜならば、スコットランドの貴族の家柄に、人間並をはるかに越して濃厚に纏綿《てんめん》しているところの高慢と狂気と不思議な悲哀との雲がここにも絡みついているからであった。スコットランドは遺伝という毒薬を二服持っている、貴族という血の意識とカルヴィン教徒の因襲の意識とがそれだ。
坊さんはグラスゴーまで用事があって来たので、今一日を割いて、友人なる素人探偵フランボーに会いにやって来たのであった。フランボーは最近伝えられたグレンジル伯の死説の真偽を確めるために今一人警察の本職探偵と倫敦《ロンドン》からやって来てこのグレンジル城に滞在していた。疑問の人物グレンジル伯は十六世紀の昔、国内の心根《こころね》の曲った貴族の間においても、剛勇と乱心とたけだけしい奸智とで彼等を縮み上《あが》らせた種族の最後の代
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