小男のスミスの方からは手紙が二通来ましたの、それが大変な手紙でしたわ」
「もう一人の方からは便りがなかったのかい?」とアンガスが訊いた。
「いいえ、ウェルキンからは何んにも」と女はちょっと口籠っていった。「スミスから来た最初の手紙には、スミスがウェルキンと連立って倫敦《ロンドン》へ徒歩旅行を始めたという事が書いてありました。けれどウェルキンは有名な足達者だものですから、小男のスミスは取残されて路傍に休んでいると、ちょうどそこを通りかかった旅興行師に拾われて、自分が侏儒に近いのと、根が悧巧者なので、見世物の仕事にだんだん成功して、まもなく、水族館へ送られて、私何か忘れましたけど曲芸をする事になったという事でしたの。それが最初の手紙なんですけど、二度目のこそは本当にびっくりするような手紙で、それも私つい先週受取ったばかりなんですの。」
アンガスと呼ばれるその青年は珈琲《コーヒー》を飲みほして、やさしげな眼光《まなざし》をしながら根気よく女の顔を見据えていた。女は口元でちょっと笑ってまた語《ことば》をついだ。「ねえ、たぶんあなたも方々の広告欄で『スミス式雇人いらず』っていうのを御覧になった
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