金の十字架の呪い
チェスタートン
直木三十五訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)卓子《テーブル》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)しつこく[#「しつこく」に傍点]
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 六人の人間が小さい卓子《テーブル》を囲んで座っていた。彼等は少しも釣合いがとれずちょうど同じ、小さい無人島に離れ離れに破船したかのように見えた。とにかく海は彼等をとりかこんでいた。なぜならある意味において彼等の島はラピュタのような大きいそして飜《ひるがえ》る他の島にとりかこまれていたから。なぜならその小さい卓子《テーブル》は大西洋の無限な空虚を走ってる、巨船モラヴィアの食堂に散らばってる多くの小さい卓子《テーブル》の一つであった。その小さい仲間は皆アメリカから英国への旅行者に他ならなかった。彼等の二人はとにかく名士と呼ばれるかもしれない、が他の人々は名の知れないものであった。そして一二の点において信頼し難くさえあった。
 その最初は前ビザンテン帝国に関しての考古学上の研究の権威である、スマイル教授であった。アメリカの大学において講ぜられた、彼の講演は欧洲において最も権威ある学府においてさえ最上の権威として受け入れられた。彼の文学上の仕事は欧洲の過去について円熟した想像力に富む共鳴に非常にひたされていた。それでそれはアメリカ人の抑揚で彼が話すのを聞く未知の人にしばしば驚喜を与えたほどであった。しかし彼は彼の態度においては、むしろアメリカ人であった。彼は長い美しい髪を大きな四角な額からかきなでていた。そして長い真すぐな恰好と次の飛躍にうっとりと沈思してるライオンの様な、潜勢《せんせい》の迅速さの平均を持つ先入見の奇妙なる混合を持っていた。
 その仲間にはただ一人の婦人がいた。彼女は(新聞記者が彼女についてしばしば言ったように)彼女自身における主人であった。それにおいても、ある時はいかなる他の卓子《テーブル》においても、女王とは言わない。女将《じょしょう》の役を演ずるべくすっかり用意をしていた。彼女は熱帯や他の諸国における著名な婦人旅行家の、ダイアナ・ウェルズ夫人であった。彼女自身は暑苦るしく重々しい赤い髪を持ち、熱帯風に美しかった。彼女は新聞記者連が大胆な流行と呼ぶ様に装っていた。が彼女の顔は聡明そうで彼女の眼は議会において質問をする婦人達の眼によく見られる輝きとかなり目立った様子をしていた。
 他の四人の姿は最初この目に立つ存在の中では影のように見えた。しかし近よって見ると彼等は相違を示した。彼等の一人は船の名簿にはポール・テ・ターラントと載ってる青年であった。彼は真にアメリカ人の模範と呼ばれても差支えのないようなアメリカ人型であった。彼はおしゃれでまた気取り屋である。富める浪費者はよくアメリカの小説にあるように柔弱な悪人を造る。ポール・ターラントは着物を着かえる他には何にもなす事がないように見えた。薄明《うすあかり》のデリケートな銀色の月のように、美くしい明るい灰色の彼の衣裳を淡色《うすいろ》やまたは豊かな影に替えて、彼は日に六度しかも着物を替えた。最もアメリカ人らしくなく彼は非常に細心に短かい巻いた髯を生やしていた。そしてまた最もおしゃれらしくなく、彼自身の型から言っても、彼は華美というよりはむしろ気むずかしいように見えた。彼の沈黙の蔭には幾分バイロン風なものがあった。
 次の二人の旅行者は自然一緒に分類された。何故《なにゆえ》なら彼等は二人共アメリカ漫遊から帰るイギリスの講師であった。一人は、あまり著名ではない詩人ではあるが、少しは名の知れた新聞記者で、レオナルド・スミスと呼ばれていた。彼は長い顔をして、明るい髪を持って、キチンと装っていた。もう一人は黒い海象《かいぞう》のような髭を生やして、丈《せい》が低く幅が広いので、滑稽な対照であった。そして他の者がおしゃべりであるのに彼は無口であった。六番目の最もつまらない人物はブラウンという名で通っている小柄な英国の坊さんであった。彼は非常に注意深くその会話に聞き入っていた。そしてその瞬間にそれについて一つのかなり奇妙な事実があったという印象を形《かた》ち造っていた。
「君のそのビザンティン研究は」とレオナルド・スミスは話していた。「ブライトンの近くの、南海岸《なんかいがん》のどこかで発見した墓穴《はかあな》の話しに、ある光を投ずるにちがいないと私は考えますが、そうじゃありませんか? もちろん、ブライトンはビザンティンからはたいぶはなれております。がしかし僕はビザンティンであるように想像されている埋葬やミイラにする型等について読んだ事がありますよ」
「ビザンティン研究は確かになかなか難かしいに違いないですな」と教授は率気《そっけ》なく答えた。「世間
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