自然でありますじゃ、あの偉大なグラドストンが、彼の最後の時パーネルの幽霊につかれたということをわしに話して見なされ、わしはそれについては不可知論者じゃ。しかしグラドストンが最初に、ビクトリア女王にお目通りをした時に、彼女の居間で深い帽子をかぶりそして彼女の後ろをパタンとたたいて彼女に煙草を差上げたという話しをわしに聞けば、わしはちっとも不可知論者じゃありませんわい。それは不可能じゃありませんぞ、それは同じ信ぜられぬ事じゃ、それでわしはパーネルの幽霊が現われなかったというよりはそれは起らなかったという方がもっとたしかでありますじゃ、なぜならそれは私が理解する世界の法律を犯すからじゃ。それで呪いの話しについてもそうですじゃよ。わしが信じないのは伝説じゃありませんのじゃ――それは歴史ですわい」
 ダイアナ夫人は凶事予言者についての彼女の恍惚から少し恢復した。そして新しい事についての彼女の好奇心が彼女の輝いた好奇の眼から再び現われ始めた。
「なんてあなたは奇妙な方でしょう!」彼女が言った。「なぜあなたは歴史を信じないのでしょうか?」
「なぜならそれが歴史じゃないからわしは歴史を信じないのじゃ」師父ブラウンは答えた。「中世紀に関して少しでも知っとる人に取ってはな、その話しは全部グラドストン[#「グラドストン」は底本では「グラドスン」]がビクトリア女王に煙草を差出したのと同じように信じられぬ事なのじゃよ、しかし中世紀について誰がいかなる事を知ってますかな?」
「いいえ、もちろん私は存じませんわ」と夫人は意地悪く言った。
「世界の他の一端において、乾いたアフリカ人の一組を保存したのが、もしタアタアカ人であったら、その理由は神様が御存じじゃ、もしそれがバビロン人かあるいは支那人であったなら、もしそれが月の世界に居る人間のように神秘なある人種じゃったら、新聞紙から歯ブラッシに至るまで、それについて凡てあんた方に報告するじゃろう。がしかし人間は吾々の教会を建てそして吾々の町やまた今現に歩いて道路に名をつけたのじゃ――しかしそれ等について何事も知るような事が起らなんだ。わしもわし自身多くを知っとるのではない、がしかしその物語りは始めから終りまでつまらないそして馬鹿気た事じゃという事を見抜くに充分なだけは知ってますわい。人の店や道具を差押えるのは金貸としてはそれは不正であったのじゃ。ギイド
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