MUJINA
小泉八雲 Lafcadio Hearn
戸川明三訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)濠《ほり》が

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]
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 東京の、赤坂への道に紀国坂という坂道がある――これは紀伊の国の坂という意である。何故それが紀伊の国の坂と呼ばれているのか、それは私の知らない事である。この坂の一方の側には昔からの深い極わめて広い濠《ほり》があって、それに添って高い緑の堤が高く立ち、その上が庭地になっている、――道の他の側には皇居の長い宏大な塀が長くつづいている。街灯、人力車の時代以前にあっては、その辺は夜暗くなると非常に寂しかった。ためにおそく通る徒歩者は、日没後に、ひとりでこの紀国坂を登るよりは、むしろ幾哩も※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]り道をしたものである。
 これは皆、その辺をよく歩いた貉のためである。

 貉を見た最後の人は、約三十年前に死んだ京橋方面の年とった商
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