両人の眼はらんらんと光った。
『わかりませんか?』
『奴が?』
『いますよ。』
『いる?』
『いるのです。』
『隠れて?』
『どうして、ずうずうしく召使に化けて‥‥』
 さすがの課長も、ルパンの飽くまでも大胆なのに茫然として自失せんばかりであった。
 ガニマール氏はほくそ笑みつつ、
『ソーニャがもしヘマをやるかと心配して、第四の役を背負って戻って来たものです。保険金を請取らぬ中《うち》しっぽを見せては折角の苦心も水の泡なので、自分がいて裁配《さいはい》を振らねば心許なかったのでしょう。三週間前から、私の行動を蔭にいて窺っているのです。』
『どうして見極めをつけた?』
『もちろん顔では分りません。彼奴は独特の変装術を心得ていますから、とても見分は付きません。私もまさか召使に化けて入っていようとは思いませんでした。ところが今晩、ソーニャと乳母のビクトアルが、階段の蔭の真暗な所で立話をしているのを盗み聞きますと、乳母が召使を呼ぶに『坊ちゃん坊ちゃん』と言ってるじゃありませんか。その坊ちゃんでようやくハッと気付いたのです。ビクトアルは今でも奴の事を子供のように思って、いつでもこう呼んでい
前へ 次へ
全37ページ中31ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ルブラン モーリス の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング