てソッと外の様子を覗《うかが》った。二人の男が人道をぶら付いている。グロニャールとルバリュだ。
『俺の邸の前で面《おも》を隠さないとは図々しい野郎どもだ。だが面白くなって来たぞ、奴等もこの首領《かしら》に従わんければ何も出来ない事を今こそ覚《さと》ったんだろう。この上は灰色の髪の婦人と対談だ!』
 母子《おやこ》は互に手を執りかわし、母親は心配の余り、眼に涙を一杯ためていた。しかしルパンがしたと同じく、子供のジャケツに手を差し入れて、目的物があるかないか捜していたが、無邪気な子供が、
『無かったのよ、母様、本統に無かったのよ』というと、彼女はわが子をしっかと、両腕に抱きしめた。子供は昨夜来の疲れと恐怖でまもなくスヤスヤと眠ってしまった。母親も、はなはだしく気疲れがしたと見えて、子供の上に頭を下げたままウットリとしていた。ルパンはその様子をジッと眺めた。美しい中にもどこかに気品のある容貌、それにいささかの面窶《おもやつ》れが見えて、人をして思わず深い同情愛憐の心を起さしめる。
 ルパンは我知らず婦人に近づいて、
『私は、あなたが何を計画していられるか知らないが、しかしいずれにしても、有力な援助が必要です。あなた単独《ひとり》では、とても成功はしませんよ』
『私は単独ではございません』
『あすこに居る二人の男かね?私は二人とも知っている。がきゃつ等は問題にはなりません。私を利用なさい。先般、あの劇場で御話した事を覚えていらっしゃるでしょう。その節一切お話し下さるはずでした。今日はゆっくり承りましょう』
 彼女はその美しい眼をルパンに向けて、長い間ヂッと彼の様子を眺めて見た。
『あなたはどれだけ私の事を御承知でいらっしゃいますか?』
『知らない事はまだたくさんにあります、第一私はあなたのお名前も知らない。しかし私の知る所では……』
 彼女は突然その言葉を遮《さえぎ》り、思い切った強い調子で、
『御伺いする必要はございません。要するにあなたの知っていらっしゃる所はホンのわずかでかつ重要な部分ではございません、しかし、あなたの御考えはどうなのです? あなたは私《わたくし》に助勢してやると仰って下さいますが……何のためにですか? 失礼かもしれませんが、あなたも何か目的をもっていらっしゃるでしょう。私《わたくし》はまずそれを伺いたいのです。一例を申上ぐれば、ドーブレクさんはある品
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