出して、骨を折ってもらいたくなるんだ』
『そんな事をして、あなたは面白がっていらっしゃる。わたしを色々な危い所へ連れ込むのが面白いんでしょう、きっと!』
『でもまあ、何事も神様の思召《おぼしめし》でございましょう……仕方がございません。……でわたしは、どんな仕事をするのですか?』
『まず第一に、俺を隠匿《かくま》っておく事だ。この部屋の半分だけ俺に貸しておくれよ。俺は長椅子の上へ寝りゃたくさんだから、それからおれに必要なものを食わせてくれる事だ。それから今一つおれの云う通りに、おれと一緒に捜し物をするんだ』
『何を捜すんですか?』
『前に話した事のある貴重な品だ』
『何んですか、それは?』
『水晶の栓さ』
『水晶の栓!……まあ!妙なものを!もし見付からなかったら……』
ルパンは静かに彼女の腕を握って、真面目な調子で、
『それが見付からないと大変な事になる。そら知っているだろう、お前も可愛がっていたあのジルベールの首が無くなるんだ、ボーシュレーと一緒に……』
『ボーシュレーなんぞは構いませんよ、どうなったって……あんな悪党は……だが可哀想にジルベールが……』
『乳母《ばあや》は今日の夕刊を見たろう? 事件《こと》がどうも面白くないんだ。ボーシュレーは書記を殺した下手人《げしゅにん》がジルベールだと云い張っている。ところが悪い事には、ボーシュレーの使った短刀はジルベールの持ってたものなんだ。それに今朝も有力な証人が出ている。何《な》にしろジルベールは利口な様でも年が若いだけに度胸が出来ていないから、ちょっとした事実を隠してみたり、曖昧な陳述をしてみたり、あるいはつまらぬ事を云い抜けようとするから、ますます不利になってしまうと、こう云う訳なんだから、乳母《ばあや》も一ツ大いに力になってくれ』…………
その夜、深更になって代議士が帰って来た。
以来数日間、ルパンはドーブレクと、生活を共にする様になった。彼がちょっとでも外出するとルパンは早速秘密捜索を行った。ルパンは彼一流の調査方法を講じた。すなわち各部屋を幾つにも区劃《くかく》し、その一ツずつについて細心な注意と整然たる順序をもって研究するのだ。のみならず、代議士の一挙手一投足から、その無意識にする動作に、表情に、あるいはまた彼の読む書籍、彼の書く手紙、あらゆるものは一ツ残らず敏感なルパンの目をもって監視した。
前へ
次へ
全69ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ルブラン モーリス の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング