に厳重に監視されておるか、一ツ大いに取調べる必要があるぞ』
 ルパンが、早速秘密探偵局について取調べさせた処によると、
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「アレキシス・ドーブレク[#「ドーブレク」は底本では「トーブレク」]。一昨々年ブーシュ・ドュ・ローヌ県選出代議士、無所属、政見は明瞭ならざるも、常に巨額の金員を散じて選挙民の好感を買い、地盤すこぶる強固なり。別に財産無し。しかれども巴里《パリー》本邸の外《ほか》アンジアン及びニイスに別荘を有し、はなはだ贅沢なる生活を為せるも、その財源をいずこに求むるや不明。元来政界に特殊関係、または党派的勢力なきにもかかわらず、政府に対して絶大の勢力を有し、その要求の貫徹せざるものなし」
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『こりゃ職業調査だ』とルパンは報告書を読み返しながら云った。『俺の要求するのは素行調査だ。秘密調査だ。本人の内的生活に関する報告だ。これがあれば暗中模索の俺の活動もまた非常に楽になるし、ドーブレク[#「ドーブレク」は底本では「ドーブレグ」]に関係合《かかわりあ》って無駄骨を折るか折らぬかの見当がつくんだ!……フーム、こうしておる内にも時は経つ……』
 当時ルパンが平素の住宅としていたのは、凱旋門の傍のシャートーブリヤン街であった。そこにミシェル・ボーモンという変名で家を借りていた。住心地のいい家《うち》で、アシルと云う腹心の部下と二人|限《き》り、この下男代りの部下がルパンに対して各方面から来る電話を細大もらさず主人に通じる役を引受けていた。
 この家に帰ったルパンは女工風の女が一時間も前から尋ねて来て待っておると聞いて尠《すくな》からず驚いた。
『何んだって? だって今までに一人だって尋ねて来たものが無かったじゃないか? 若い女か?』
『いいえ、帽子も冠《かむ》らず、頭からショールを被っていますから、顔はよく解りませんが……』
『誰れに会いたいてんだ?』
『ミシェル・ボーモンさんにと云いました』と下男が答えた。
『可怪《おかし》いなあ。して用件は?』
『アンジアンの事件とだけしか云いません……ですから私は……』
『うむ! アンジアン事件! じゃあ女は俺がその事件に関係しておる事を知っておるんだな!……会おう!』
 ルパンはズカズカと客間に行って、その扉《ドア》を開けた。
『オイ、何を云ってるんだ。誰も居ないじゃないか』
『居ませ
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