で火の中にくべられてしまった。そして本を配った青年は、鉄の面を被《き》せられて、一生寂しい島の牢屋に閉じ込められた。
 その青年を国王の目の前に連れてきた大尉は、その本が焼かれる時、ふと国王が傍見《わきみ》せられた隙に、手早く火の中から一冊を抜きとって懐中《ふところ》へ隠した。しかしその大尉もまもなく町の真中に死骸となって横たわった。その時大尉の服のポケットの中に、立派な珍しいダイヤモンドが入っていた。
 エイギュイユ・クリューズの秘密は仏蘭西《フランス》国家に伝わる一大秘密なのであった。代々国王がお亡くなりになった時にはきっと「仏蘭西《フランス》国王に与える」という封をした一冊の本が枕元においてあった。この秘密こそ仏王《ふつおう》に伝わる巨万の宝物《ほうもつ》の隠してある場所を教えてあるものなのであった。
 その後百年ばかりすぎて、大革命の時|獄屋《ごくや》に閉じ込められた仏王ルイ十六世は、ある日密かにその番人の士官に頼まれた。
「士官よ、……私がもし亡くなったならば、どうぞこの紙片《かみきれ》を我が女王に渡してくれよ。エイギュイユの秘密であるといえば、女王はすぐに分るであろう。」

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