《きゃつ》です。」とボートルレはいった。
「アルセーヌ・ルパンに違いありません。」
 バルメラ男爵はその話をたいへん面白がって聞いていた。バルメラ男爵も新聞で見て、ルパンとボートルレとの闘いは知っていた。
 ボートルレはその決心を男爵に打ち明けた。夜中《やちゅう》に一人でその壁を乗り越えて、少年は父を救い出す決心なのである。バルメラ男爵はいった。
「あなたはそう何でもないようにいいますが、あの壁はそうたやすく乗り越せるものではなく、よしや壁を越えたとしても、城の中へはどうして[#「どうして」は底本では「どうへして」]入ります?それに城の中だって八十も室《へや》があって、とても分るものではありませんよ。」
「じゃ、どうぞ僕と一緒に来て下さい。」とボートルレはいった。
 初めは断っていたバルメラ男爵も、とうとうボートルレ少年と一緒にその城に忍び込むことになった。男爵はその翌日|真赤《まっか》に錆びた鍵を持ってきてボートルレに見せた。
「これは叢《くさむら》の中にうずもれている小さな潜戸《くぐりど》を開ける鍵です。」
 ボートルレはあわてて口を挟《さしはさ》んだ。「ああ、いつか僕がつけた男が
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