いてみると、嬉しや間違いもなくそれは父の書いたものであった。その手紙には、
「この手紙がお前の手に入るかどうか分らないとは思うが、とにかく書きます。私は誘拐せられたその日の夜中に自動車で連れられてきました。しかし目隠しをされているのでどこやらさっぱり分らない。私の今いるのは[#「いるのは」は底本では「いのるは」]あるお城です。室は二階にあって、窓が二つあります。一つの窓は蔓草に覆われています。
 思い掛けなくこの手紙を書くことが出来ました。いい折があったら、この手紙を小石に結びつけて城の外へ投げようと思っています。通り掛りの百姓などが拾ってくれて、パリへ送ってくれるかもしれないと思っているのです。
 しかし私のことは心配は入りません。毎日庭の中を散歩する時間もあります。とりあつかいもたいへん叮嚀《ていねい》です。ただ私のことでお前に心配を掛けるのをすまないと思っています。[#地から3字上げ]父より。」
 ボートルレは急いで封筒の消印を調べてみた。それには「アントル県、クジオン局」としてあった。
 アントル県?この県こそ少年が汗水たらして尋ね廻ったところではないか!
 少年は早速今度は労
前へ 次へ
全125ページ中73ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ルブラン モーリス の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング