少年は静かに少女の手を開かせてその顔を上げさせた。あわれな少女の顔は涙に濡れて、不安と後悔の色が流れていた。
「さあさあすぎたことは仕方がありません。僕は決して怒りはしません。その代り男たちがどんなことを話していたか、知っているだけ話して下さい、僕のお父様を何で連れていって?」
「自動車よ……」
「何かいっていましたか?」
「何だか、町の名をいっていたのよ。」
「どんな名前?」
「シャート……何とかいってよ。」
「シャートブリアン?」
「いいえ……」
「シャートールー?」
「そそ、そうよ、シャートールーよ。」
 ボートルレはそれを聞くと、フロベルヴァルの帰りも待たず、驚いて眺めている少女にも構わずに、そのコーヒー店を飛び出して、停車場へ駆けつけ、ちょうど発車し掛けていた汽車に飛び乗った。
 ボートルレは一度パリで降りて、友達の家へ入り、そこで上手に変装した。見たところ三十歳くらいの英国人、服は褐色の弁慶縞、半ズボンをはき、鳥打帽子《とりうちぼうし》をかぶり、顔を上手に染め、赤い髯を鼻の下につけていた。
 シャートールーへ着いて調べてみると、二つばかり証拠があがった。パリへ電話を掛け
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