らないかも分ります。」彼は落ちつき払って、「そして僕のお父さんは誘拐なんぞされません!」
二人はお互に鋭い眼光で睨み合って、物もいわず油断なく構えて、今にも血腥《ちなまぐさ》き[#「血腥き」は底本では「血醒き」]ことが起りそうに見えた。ああこの恐るべき闘争に勝つ者は誰ぞ。
悲痛の打撃
ルパンはやがて呟いた。
「今夜、午前三時、俺の中止命令がなければ俺の部下二名が、貴様の親父の室へ入り、言葉で欺《だま》すか、力ずくでやるか、どちらにしても親父をさらって連れ出し、ガニマールやショルムスがいる所へ送り込むことになっているんだ。」
と、言葉も終らぬうちにボートルレは高々と笑い出した。
「はははは大盗賊のくせに、僕がそんな用心はもう遠《とお》にしているということぐらい分らんかなあ、ははは、僕はそんな馬鹿じゃありませんよ。はははは」
少年は両手をポケットへつっ込んで室の中をあちこち歩きながら、鎖につながれた猛獣にからかっているいたずらっ子のように気楽に力んでいる。彼はなお静かにつづける。「ねルパン君、君は君のやることなら間違いはないと思っているんですね。何という己
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