始めよう。」
「え!談判?」とボートルレは吃驚《びっくり》したような調子でいった。
「そうだ、談判さ。俺は君に一つの約束をさせなけりゃ、この室《へや》を出ない決心だ。」
 ボートルレはますます驚いたような調子だった。彼はおとなしくいった。
「僕はそんなつもりはちっともしていませんでした。なぜそんなに怒っているんです。境遇が変っているから敵《かたき》だというんですか、え、敵《かたき》って、なぜです?」
 ルパンは多少|面喰《めんくら》った態であったが、
「まあ、君、聞きたまえ、実はこうだ。俺はまだ君のような対手《あいて》に出っ会《くわ》したことがない。ガニマールでもショルムスでも俺はいつも奴らを嬲《なぶ》ってやったんだ。だが俺は白状するが、今は俺の方が君に負けていると見なければならない。俺の計画した仕事は見事に破られた。君は俺の邪魔だ。俺はもうたくさんだ、我慢が出来ん!」
 ボートルレは頭を挙げて、
「では、あなたは僕にどうしろというんです。」
「人は自分々々の仕事があるものだ。それより余計なことはしないようにするものだ。」
「そうすると、あなたはあなたの好き勝手に強盗を働き、僕は勝手に
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