っとあとで、おもしろい思い出になるだろう。みんなはりきって、おおいにやろう。かねていっているとおり、いつでも、先の希望を見つめているように。日本の海員には、絶望ということは、ないのだ。
 筏は、ここにつないでおき、荷物は、岩の上において、これから伝馬船で、島をさがしに行くから、島を見つけだし、いどころがきまってから、筏を取りにひき返そう。
 伝馬船には、井戸掘道具、石油の空缶五、六個、マッチ、かんづめ一箱、風がふきだしたら、帆にする帆布と、帆柱にする丸太、たきぎにする板きれを積め、用意ができたら、すぐ出発」
 私の訓示とげきれいに、一同はこころよくうなずいて、出発の用意にかかった。
 用意はすぐにできた。
「伝馬船、用意よろし」
 運転士は、大声で報告した。
「出発」
 私の一令で、十六人の乗りこんだ伝馬船は、岩をはなれた。

   龍睡丸《りゅうすいまる》よ、さらば

 風のない朝の大海原を、たくみに暗礁《あんしょう》のあいだをくぐりぬけ、うねりの山を、あがったりおりたりして、北をさして、こぎすすんだ。
 うねりの山のいただきに、伝馬船《てんません》がもちあげられる時には、難破してい
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