どんひろがって、一ミリの二百万分の一という、想像もつかぬうすい膜となって、海面をおおい、波をしずめるのである。

 それで龍睡丸《りゅうすいまる》の乗組員も、たけりくるう波を、油でしずめようとした。
 石油|缶《かん》に、海がめやふかの油を入れ、小さなあなをいくつかあけて、二缶も三缶も、海に投げこんだ。しかし、岩にあたってあれくるい、まきあがる磯《いそ》の大波には、油のききめは、まったくなかった。
 いよいよ、運転士と水夫長が、伝馬船に乗りこむと、伝馬船をつってある滑車の索《つな》に、みんなが取りついて、そろそろおろしはじめた。
 波のあいまを見さだめて、やっと、水ぎわまでおろした。
 そこへ、山のような怒濤《どとう》が、ざぶっ、とやって来た。ただひとのみ。あっというまに、伝馬船も人も、見えなくなった。
 あとは、ただ白い波が、いちめんにすごく、わき立っているばかり。
 さすがの一同も、顔色をかえた。命のつなとたのんだ伝馬船は、波にのまれてしまった。たのみにしている指導者の、運転士と水夫長は、波にさらわれてしまった。もうわれわれは助からない。
 船長の私も、決心した。もちろん、ほかの乗
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