んにくだけて、小さい破片も残さなかった。しかし、漁船をまもっていた四人の漁夫は、さすがに、いくどか大しけの荒波をしのいできた勇士だ。一人のけがもなく、ぶじに残った。
私は、みんなに命令するとすぐに、船長室に飛びこんで、必要な書類を[#「書類を」は底本では「書類な」]一まとめにして、しっかりとふろしきづつみにして、寝台の上においた。それからずっと甲板に出て、指図をしているうちに、大波が、右舷《うげん》からうちこんで、船長室の戸をうちやぶり、左舷へ通りぬけて、室内の物を、文字通り、洗いざらい持っていってしまった。海図も、水路誌《すいろし》も、コンパスも、波がさらっていった。
まだ波に取られないのは、伝馬船一|隻《せき》。命とたのむのは、これだ。こればっかりは、どうしても失ってはならない。総員全力をつくして、伝馬船をまもった。
こんなたいへんな時にも、十六人の乗組員は、よく落ちついて働き、とくに小笠原《おがさわら》老人は、よく青年をはげまして、上陸の支度をした。
今夜にかぎって、時のたつのが、じつにおそい。夜明けが待ち遠しい。早く夜が明けますように――波をかぶりながら、神に祈った。
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