、動けなくなった船を、いじめるように、波の大きなうねりをだんだん大きくして、船をゆり動かす。
 当直を終って、一休みと、ねようとする人たちも、眠られないくらいに、船はゆれた。私は、たえず甲板に出ては、風がふいてはこないかと、空をながめた。
 こうして、いやな夜は明けて、十九日の朝になったが、きのうの夜、風がやんでから天候がかわって雲がいちめんに空をおおって、太陽を見せない。
 ちょっとでも太陽が見えたら、太陽をはかって船の位置を知ろうと、六分儀を用意して、私も運転士も、空ばかり眺めていた。じぶんの船が、どこにいるのかわからないくらい、いやな気もちのことはない。
 それで、見はりを厳重にさせて、帆柱には、二人の見はり番をのぼらせた。二時間交代で、朝から晩まで、たえず四方を見はらせた。
 もしや、水平線に島が見えないであろうか。海の色がかわっているところはないか。海鳥がむれ飛んでいるところはなかろうか。そういうものが見えたら、すぐ知らせるように、帆柱の上でも、甲板の上でも、船をぐるりと取りまく水平線を、みんなはするどく見まわすのであった。しかし、なんにも見えなかった。
 このあたり熱帯の海
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