。
「おやじさん。何か、わけがあるのかい、岩でごつごつのこの島には」
「そうだよ。わかい生徒さんなんかは、聞かないほうがいいんだ」
浅野練習生は、首をつきだした。
「教えてくれたまえ。なんでも聞け、それが勉強だ。船長が、いつでもいわれるじゃないか。ねえ、おやじさん」
「そうだなあ――話しておくほうがいい、なあ」
小笠原は、立ちあがって、島を指さした。
「いいかい、あの山は、八十四メートルの高さだ。無人島だが、大昔に、人が住んでいた跡があるんだ。それよりも、あの山に、三十いくつの墓石が、ならんでいるのだよ」
「三十いくつの墓石」
「それはね、昔、外国船の難破した人たちが、この無人島に流れついて、七年間も、岩窟《がんくつ》に住んでいた。そして、うえ死にしたということだ」
浅野も、秋田も、国後も、あらためて、岩山のいただきを見つめた。
南海の強い日光に、岩のかたまりは悪魔のような影がつけられ、そのあたりを、一陣のあらしのように飛びさる、海鳥の群。
島の根もとに、がぶり、がぶり、とかみついている、波の白い牙《きば》。
故郷を遠く幾千カイリ、この無人の孤島に、三十いくつの立ちならぶ墓
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