は、大きさといい、猛烈さといい、猛獣狩《もうじゅうがり》とでもいう気分である。
帆柱の根もとで、甲板につまれたふかから、せっせと、ひれを切りとっていたのは、北海道|国後《くなしり》島生まれの漁夫、国後であった。肩はばのひろい、太い手足、まる顔のわか者である。かれと向かいあって、ひれのしまつをしているのは、帰化人の小笠原《おがさわら》であった。青い目で、ひげむしゃの小笠原は、五十五歳の、老練な鯨とりで、この船のなかでは、最年長者。青年船員からは、父親のように親しまれて、「おやじさん」とか、「小笠原老人」とかよばれている、ほんとうの海の男である。
国後は、島を見ていたが、
「ねえ、おやじさん、あの島は、なんだかすごい島だね」
というと、小笠原は、
「うん、ただの島じゃないよ。それについちゃあ、話があるんだよ」
と、ひれをにぎったまま、島を見つめた。
このことばを、通りがかった、浅野練習生と、秋田練習生が、聞きとがめた。二人の練習生は、いま、船長室で、午前の学科を終って、ノートと書籍をかかえて、船首の自室へ、ころがっているふかを、よけたり、またいだりしながら、帰るとちゅうであった
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